大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

岡山地方裁判所 昭和45年(ワ)313号 判決

原告

田上孝将

外一名

右原告両名訴訟代理人

豊田秀男

外一名

被告

株式会社大栄左官工業所

右代表者

池田由太郎

右訴訟代理人

竺原巍

主文

被告は原告らに対し、それぞれ二二一万一九四八円及びこれに対する昭和四五年五月二三日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

原告らのその余の請求を棄却する。

訴訟費用は、これを五分し、その二を原告ら、その三を被告の負担とする。

この判決は、原告ら勝訴部分に限り、仮に執行することができる。

事実

第一、申立

一、原告ら

1  被告は原告らに対し、それぞれ三七八万円及びこれに対する昭和四五年五月二三日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

との判決並びに仮執行宣言。

二、被告

1  原告らの請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

との判決。

第二、主張

一、原告の請求原因等

(一)  労働災害事故

被告は、昭和四二年一二月一日当時、兵庫県西脇市郷之瀬字山の下六〇五番地西脇市役所庁舎新築工事現場において、同工事のうち左官工事を下請施行していたが、被告の被用者である訴外和田信市、同桝田義夫両名は、同工事現場で資材運搬用作業機械、通称ユニヴァーサルリフト(以下、本件リフトという。)の操作を担当していた。ところが、同日午前八時五分頃、タイル工見習訴外田上正明(当時一六才)が本件リフトのウインチに巻込まれて即死した(以下、本件事故という。)。

理由

一、労働災害事故

請求原因(一)の事実は、当事者間に争いがない。

二、責任原因

1  前示当事者間に争いのない事実、<証拠>を総合すると、次のとおり認められる。

(1)  本件事故当日である昭和四二年一二月一日当時、兵庫県西脇市郷之瀬字山の下六〇五番地における西脇市役所庁舎新築工事は、訴外株式会社大林組が請負つていたが、同会社は、とび、大工、鉄筋、造作、電気、水道、タイル、左官等諸工事を、いずれも専門業者に下請させ、左官工事は下請業者の被告会社が、タイル工事は下請業者訴外平田タイルから更に下請した訴外斉藤タイル施工技術研究所こと斉藤某が、それぞれ施工していた。右株式会社大林組は、右工事中の鉄筋コンクリート造四階建一部二階建庁舎棟の北側外壁の地上から屋上の高さまで組み立てた作業用足場に接して本件リフトを設置していたが、特定の者を運転者として指名せず、右各下請業者をして、それぞれ各下請工事用資材の運搬のため随時自由にこれを使用運転させ、また、危害防止のため後記巻上用ロープの内角側等労働者に危害を及ぼすおそれのある箇所に労働者の立入を禁止する措置を何ら講じていなかつた。

(2)  本件リフトは、荷をガイドレールに沿つて昇降する搬器(荷台)にのせて、動力を用いて運搬することを目的とする機械装置で、土木、建築等の工事の作業用に使用する建設リフト(昭和三七年労働省令一六号クリーン等安全規則一条七号)であつて、別紙図面のとおり配置されていた。そのガイドレールは、垂直に立てた長さ約二三メートルの一〇センチメートル角H字型鋼鉄で、積載荷重七五〇キログラムの荷台がこれに取付けられており、一端をガイドレールの頂上に固定した、太さ一三ミリメートルの巻上用ワイヤロープが、順次、荷台上端の滑車、ガイドレール頂上に取付けた滑車、ガイドレール根元の地上約五〇センチメートルの箇所に取付けた滑車を経て、他の一端を地上に置いたモーターウインチのドラム(直径27.5センチメートル)に固定し、右モーターウインチ(一〇馬力、ブレーキ及び減速ギャ付、高さ約六〇センチメートル)を電力で回転させることによつて荷台を昇降させる装置になつていた。そして、これを操作するスイッチは、長さ約一八センチメートルのレバースイッチで、レバー先端のボタンを押したうえ、(イ)レバーを手前に引倒すと電流が通じ、モーターウインチがドラムの下方から地上二五ないし三〇センチメートル位の高さで張つた巻上用ワイヤロープを巻上げて荷台を上昇させ、(ロ)反対にレバーを前方に押倒すと電流が逆流してモーターウインチが逆回転し、巻上用ワイヤロープを伸ばして荷台を下降させ、(ハ)レバーを真中に立てると電流が切れ、モーターが停止し、ブレーキが作動してうウインチが回転を停止する装置となつていた。

(3)  前記庁舎棟北側外壁の作業用足場は、本件リフトの周辺では別紙図面のとおりビテー(綱管)支柱や根元の直径一〇センチメートル位の丸太支柱を所狭く立て右丸太支柱は地上三〇センチメートル位の箇所で八センチメートル角材を横にして根締を施しており、そのうえ工事中のため、地面には土砂が散乱して凹凸を極め、狭隘な場所に作業用の諸資材も乱雑に山積されていた。また、別紙図面のとおり、コンクリート型わく板を組合せて作つた高さ六〇センチメートル位の生コンクリート仮置場が設置されていた。

(4)  被告会社は、左官職人訴外和田信市(当時二九才)を現場責任者として従業員二〇名余を指揮させ、前記左官工事にあたらせていた。訴外桝田義夫(当時五六才)は、本件事故の前々日である昭和四二年一一月二九日に臨時手伝人足として被告会社に雇われ、右工事現場で左官手伝として就業を始めたが、同日午後、和田自ら桝田に対し同人の技能を選考したのでもないのに、本件リフトを随時同人をして運転させるため、その運転方法を教えた。その際、和田は、桝田が前記スイッチのレバー先端のボタンを押さえ放したままスイッチの操作をするので、荷台が予定位置に停止しなかつたり、或いは荷台を地上に降したときにワイヤロープが弛み次の上昇開始時に縦に振動するばかりか横にまで振動し危険であることを注意しただけで、そのほかに本件リフトを安全に運転すべきことについて何らの注意を与えなかつた。また、和田は、かねてから本件リフトの運転について被告会社の従業員中、技能を選考して指名した者をして担当させていたものではなく、かつ、一定の合図を定め、合図をする者の指名もしていなかつた。

(5)  本件事故直前、桝田は、セメント一袋を二階作業台に運搬するため、これを荷台にのせたうえ、別紙図面のスイッチのある場所で、これを操作し、一定の合図をする者もいないまま、運転を開始したが、その際未熟な同人は荷台を丁度二階の作業台の高さに停止させることに気をとられ、その方向にばかり注視し、同所からモーターウインチ付近にいる人は良く見通せるのに、運転開始にあたりモーターウインチの方向を注視して安全を確かめることを全くしなかつた。

(6)  他方、亡正明は、前記斉藤某に雇われ、本件事故の約三ケ月前から前記工事現場でタイル工見習として、タイル工の下働きをしていたが、本件事故直前モーターウインチ付近で地面に添つた巻上用ワイヤロープの上あたりの、表面が地上2.14メートルの足場(別紙図面に点線で示す位置)上で外壁タイル張り工事のための足場組み作業をしていたタイル工訴外狩野源平、同都丸宇三郎に云いつけられて、前記生コンクリート仮置場の北東角外側付近から足場板固め用の長さ約1.5メートルの番線(鉄線)数本を携え、これを右狩野らに地上から直接手渡すべく、生コンクリート仮置場の北側を回つてモーターウインチ近くの右足場下付近に来た際、前記のとおり桝田が運転を開始した本件リフトの巻上用ワイヤロープによりモーターウインチのドラムに巻込まれ、狩野がこれを発見して大声で叫び桝田に本件リフトの運転を止めさせたが、既に亡正明は巻上用ロープでその身体が六回もドラムに巻付けられており、腹部内臓破裂で即死していた。

以上の事実が認められる。

亡正明がモーターウインチに巻込まれ始めた際の状況について、原告は巻上用ワイヤロープが着衣を引掛けたようにいい、前示甲六号証(都丸宇三郎の警察での供述調書)中には始動時に縦横に振動する巻上用ワイヤロープにあたつたと思う旨の記載があり、また、前示甲一二号証(狩野源平の検察庁での供述調書)中には洋袴を巻上用ワイヤロープに引掛けたか、足を巻上用ワイヤロープと角材との間にはさまれたか、巻上用ワイヤロープの上に尻餅をついたかであろうと思う旨の記載があり、他方、被告はモーターウインチのドラムの上に足を掛けて乗つたと主張し、前示甲九号証(桝田義夫の検察庁での供述調書)並びに証人横山武の証言中に同主張に添う部分があるが、以上はいずれも推測の域を出ないため採用することはできないし、また、前示甲一号証(実況見分調書)により認められる本件事故直後モーターウインチの西側に八本の番線の存在した事実から、直ちに右被告主張を認めることもできず、結局、亡正明がモーターウインチに巻込まれ始めた際の状況じたいを明らかにする証拠はない。

そうして、ほかに前記認定を左右する証拠はない。

2  前記認定事実によれば、本件事故について、亡正明の過失の有無はしばらくおくとして、前記桝田は、建設用リフトの運転者として、搬器(荷台)の地上からの上昇運転を開始するに際し、前記認定の本件リフトはモーターウインチが回転し、地面に添つている部分の巻上用ワイヤロープが縦横に振動するため、モーターウインチないし右巻上用ワイヤロープ上にいる者或いはその至近の場所にいる者に不測の危害を及ぼすおそれがあるから、運転開始前にモーターウインチ及び右巻上用ワイヤロープ一帯の人の有無を確かめ、人のいる場合には警告をしてこれを安全な場所まで立退かせた上はじめて運転を開始すべき注意義務があるのに、同注意義務を怠り、モーターウインチ及び右巻上用ワイヤロープ上ないしその至近の場所に亡正明がいたことに全く気づかないで運転を開始したため本件事故が発生したものと認められるから、桝田に過失があることは明白である。

また、前記認定事実によれば、前記和田は、建設用リフトを使用する前記工事現場における被告会社の現場責任者として、前記本件リフトの運転による不測の事故を避けるため、そもそも技能を選考して指名した者以外の者に本件リフトの運転をさせてはならない注意義務があるのに(労働基準法四二条、四五条、前記労働省令二一三条一項)、同注意義務に反し、漫然、就業早々の臨時手伝人足で技能の選考もしていない前記桝田に本件リフトを運転させたため本件事故が発生したと認められるから、和田にも過失があるといわねばならない。

被告は、本件事故は亡正明の自己過失に基づくと主張するが、前記のとおり被告会社の被用者二名に過失が認められるので、同主張は採用できない。

3  そして、本件事故が、原告ら主張の被告会社の事業執行に際して、被告会社の前記被用者二名の過失により発生した事故であることは当事者間に争いがないから、被告は、民法七一五条により、使用者として本件事故により生じた損害を賠償すべき義務がある。

三、損害

(一)  亡正明の逸失利益

1  <証拠>を総合すると、亡正明は、昭和二六年九月四日出生の健康な男子で、54.85年の余命があり(この点は、当裁判所に顕著な昭和四二年簡易生命表によつて明らかである。)、本件事故当時タイル工見習として月二万円の賃金を得ていたが、向後四七年間右稼働が可能であつたことが認められる。

そして、生活費については、その収入の二分の一があてられるものと認められる。

そこで、右逸失利益の昭和四二年一二月一日現在における現価を年五分の中間利息を控除したホフマン式計算方法により算出すると、次のとおりであつて、次の二八五万九八七〇円(円未満切捨)の逸失利益の存在することが認められる。

2  ところで、原告らが亡正明の父母であることは当事者間に争いがなく、同事実と前記本人尋問の結果を総合すると、原告らが共同して亡正明を相続し、同人の前記逸失利益損害賠償請求権二八五万九八七〇円の二分の一、すなわち一四二万九九三五円づつを相続により取得したことが認められる。

(二)  原告らの慰藉料

<証拠>から認められる亡正明が明朗な青年であつたこと、原告らは早く長男をなくし、二男の亡正明を長子として育てて来たが、同人は昭和四二年春タイル工を自ら志望して就職してからは親元を離れて自活し、原告らも別段亡正明から仕送をうけるようなこともなかつたこと、前記認定の本件事故の態様、前記認定のとおり亡正明の逸失利益損害賠償請求権が若年の工員の低額な収入を基礎として算出したもので、かなり少いものであること、その他本件の諸事情を考慮すると、原告らの慰藉料は、後記亡正明の過失を考慮しなければ、本来、いずれも一五〇万円をもつて相当と認める。

(三)  過失相殺

前記二の1の認定事実によれば、亡正明は、前記認定のとおり本件事故当時、狭隘な場所に足場支柱や根締め等があり、土砂が散乱し、地面も凹凸を極めて工事現場に本件リフトのモーターウインチ及び巻上用ワイヤロープの地面に添つた部分が存在していたのであり、また、平素本件リフトが随時運転されていたことを良く知つていたはずであるから、同工事現場に働く作業員として、常に自己の安全にも細心の注意を払い、たとえ、本件リフトについて立入禁止の措置がとられてないにしても、また、これが不意に始動したにしても、そのため事故を招かないようにして作業すべきであつたのに、不用意にも危険な箇所にいたため本件事故にあつたことが認められ、亡正明にも過失があつたと認められる。

そして、右亡正明の過失と前記桝田、和田ら側の過失とを前記認定の本件事故態様に照らしてみると、その過失割合は前者多くとも二割、したがつて後者少くとも八割とするのが相当である。

そこで、右過失割合により、前記(一)及び(二)の各損害について過失相殺をすると、原告らの被告に対して請求し得る損害賠償額は、それぞれ、前記(一)の逸失利益一四二万九九三五円の八割一一四万三九四八円と前記(二)の慰藉料一五〇万円の八割一二〇万円との合計二三四万三九四八円づつとなる。

四、損害の填補

前記原告らの各損害賠償請求権二三四万三九四八円は、当事者間に争いのない原告らが各給付を受けた労働者災害補償保険遺族給付一時金一三万二〇〇〇円づつを控除すると、各二二一万一九四八円となる。

なお、原告らのいう葬祭料給付五万四八〇〇円は、前記過失相殺により亡正明の葬祭料の八割を算出するとしても右給付を上廻ると認められるので、同給付に関しては損害相殺の計算上考慮しない。

五、以上の次第であるので、原告らの本訴請求は、それぞれ、前記二二一万一九四八円及びこれに対する訴状送達の翌日であること記録上明らかな昭和四五年五月二三日から完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、これを認容し、その余は失当として棄却すべく、民事訴訟法八九条、九二条、九三条、一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(平田孝)

(別紙見取図省略)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!